マールガシールシャ月の始まり
マールガシールシャ月の始まりについて
マールガシールシャ月の始まりは、西暦では概ね11月から12月にかけての時期に相当します。
インド亜大陸においては冬(ヘーマンタ・リトゥ)が本格化し、朝晩の冷え込みが厳しくなり始める時期です。
この月は、古くは「アグラハーヤナ」と呼ばれていました。
これはサンスクリット語で「年の始まり」や「第一の分点」を意味し、古代においては、この月から一年が始まっていた時期があったことを示唆しています。
そのため、現代のカレンダー上の新年とは異なりますが、歴史的には「一年の始まり」としての神聖な響きを今なお残しています。
この月の最大の特徴は、クリシュナ神自身が聖典『バガヴァッド・ギーター』の中で「月々の中にあっては、私はマールガシールシャ月である」と宣言している点にあります。
この言葉により、マールガシールシャ月は「神の月」として別格の扱いを受けており、あらゆる月の中で最も吉兆で、献身(バクティ)に適した月とされています。
前月のカールッティカ月が厳格な修行と灯明の月であったのに対し、マールガシールシャ月は、純粋な愛と感謝を神に捧げる、より内面的な喜びに満ちた月です。
この時期、一部では「サティヤ・ユガ(真理の黄金時代)」が始まったのがこの月であると信じられ、吉事を行うのに適した時期として、結婚式などの祝い事が盛んに行われます。
実践としては、この月も早朝の沐浴が推奨されます。
特にヤムナー川での沐浴は、クリシュナ神への愛を深めるとされ、多くの人々が聖地マトゥラーやヴリンダーヴァンを訪れます。
また、この月全体を通して、ヴィシュヌ神とその化身への礼拝が行われますが、特徴的なのは、巻貝(シャンカ)を用いた儀式が重視されることです。
通常、巻貝は音を鳴らすために使われますが、この月には巻貝に聖水を満たして神像に灌頂(アビシェーカ)を行い、その水を信奉者の頭に振りかけることで、罪の浄化と精神の安定がもたらされると信じられています。
季節の移ろいとともに、人々の生活も冬支度へと完全に切り替わります。
アーユルヴェーダ(伝統医学)の観点からは、消化力(アグニ)が高まる時期とされるため、体に熱を与える食材や、栄養価の高い食事が推奨されます。
農村部では、冬作物の生育を見守りつつ、自然の寒さに耐えるための準備を整えます。
マールガシールシャ月の始まりは、神自身の言葉によって保証された神聖な時間の到来であり、寒さが増す外界とは対照的に、人々の心の内側では信仰の灯火がいっそう暖かく、力強く燃え上がる、一年で最も祝福された季節の幕開けとなります。