バードラパダ月の始まり
バードラパダ月の始まりについて
バードラパダ月の始まりは、西暦では概ね8月から9月にかけての時期に相当し、インド亜大陸においては雨季(ヴァルシャー・リトゥ)が後半に入り、時折激しい雨に見舞われながらも、徐々に秋(シャラダ・リトゥ)の気配が漂い始める季節です。
この月は一般的に「バードー」という愛称で呼ばれ、クリシュナ神やガネーシャ神といった、大衆的な人気を誇る神々の主要な祝祭が含まれる、信仰と祝祭の密度が極めて高い月として知られています。
この月が始まると、北インドの雰囲気は、前月までのシヴァ神への厳格な修行ムードから、クリシュナ神への甘美な信愛(バクティ)のムードへと大きく変化します。
この月には、ヴィシュヌ神の化身であり、愛と知恵の象徴であるクリシュナ神の降誕祭「クリシュナ・ジャンマーシュタミー」が控えており、寺院や家庭では夜通しの祈りや歌舞の準備が進められます。
また、この月は「チャトゥルマーサ(聖なる4ヶ月間)」の2ヶ月目にあたり、依然として結婚式などの世俗的な吉事は避けられますが、その分、祝祭や断食、慈善活動が活発に行われます。
特に、雨季の湿気が多く消化力が落ちる時期であるため、健康維持の観点から、この月にはヨーグルトや発酵食品の摂取を控えるという伝統的な食事規定(アーユルヴェーダの教え)を守る人々も多く見られます。
バードラパダ月の重要性は、単に神々を祝うことだけにとどまりません。
この月は、自己の内面を見つめ、過去の過ちを悔い改めるための期間でもあります。
ジャイナ教徒にとっての最も重要な聖なる期間である「パリューシャナ」もこの月に行われ、徹底した非暴力(アヒンサー)と断食の実践を通じて、魂の浄化が図られます。
ヒンドゥー教徒にとっても、この月に行われる様々なヴラタ(誓戒)は、自身のカルマを浄化し、精神的な向上を目指すための重要なステップとなります。
自然環境に目を向けると、川は満水となり、大地は緑に覆われていますが、同時に季節の変わり目特有の不安定さも抱えています。
そのため、バードラパダ月の始まりは、自然の力に対する畏敬の念を新たにするタイミングでもあります。
人々は、神々への祈りを通じて、洪水や疫病といった災害から身を守り、来るべき収穫の季節に向けて平穏無事を願います。
空に広がる厚い雲と、その合間から差し込む日差しのコントラストのように、この月は厳格な規律と、祝祭の喜びが共存する、ダイナミックで精神的に高揚した1ヶ月の始まりとなります。