アーシャーダ月の始まり
アーシャーダ月の始まりについて
アーシャーダ月の始まりは、西暦では概ね6月から7月にかけての時期に相当し、インド亜大陸においてはこの月から本格的なモンスーン(雨季、ヴァルシャー・リトゥ)が到来します。
これまで大地を焼き尽くしていた焦熱が、恵みの雨によって冷却され、乾いた土の匂いが湿った大気の香りに変わる、劇的な季節の転換点です。
アーシャーダという名称は、この月の満月の日に月が「プールヴァ・アーシャーダー」または「ウッタラ・アーシャーダー」というナクシャトラ(星宿)の近くに位置することに由来しています。
この月の始まりは、農耕社会であるインドにとって、生命のサイクルの再始動を意味します。
農民たちは空を見上げ、雨雲の到来を喜び、種まきの準備に追われます。
宗教的にも、この月は非常に重要な期間への入り口となります。
まず、世界的に有名なオリッサ州プリーの「ジャガンナータ・ラタ・ヤートラー(山車祭り)」が開催され、神が街に出て民衆に祝福を与えます。
また、ヴィシュヌ神が4ヶ月間の宇宙的な眠りにつく日と信じられる「デーヴァシャヤニー・エーカーダシー」が祝われます。
これにより、「チャトゥルマーサ」と呼ばれる聖なる4ヶ月間が始まり、結婚式などの世俗的な吉事は避けられ、代わりに内面的な修行や巡礼が推奨される時期へと移行します。
つまり、アーシャーダ月の始まりは、人間が精神的な探求へと向かうための準備期間のスタートでもあります。
季節の変化は人々の生活様式にも影響を与えます。
雨季の湿気や虫の発生に伴い、健康管理が重要視されるようになります。
アーユルヴェーダ(伝統医学)の観点からも、消化力が低下しやすいこの時期には、食事の内容を調整し、断食を行うことが推奨されます。
また、この月は「グプタ・ナヴァラートリ(秘められた九夜祭)」と呼ばれる、タントラ的な修行を行う期間を含んでおり、女神(シャクティ)への密教的な崇拝が行われる月でもあります。
公に行われる華やかな祭りと、修行者が密かに行う厳格な儀式が並行して存在するのがこの月の特徴です。
アーシャーダ月の到来は、灼熱の太陽の支配から、雲と雨の支配への権限委譲の時です。
人々は、自然界の水循環の回復を神の恩寵として受け入れ、河川の水位上昇を神聖な力の高まりとして崇めます。
乾燥してひび割れた大地が癒やされていくように、人々の心も厳しい暑さによるストレスから解放され、豊穣と繁栄への期待に満たされます。
このように、アーシャーダ月は物理的な潤いと、精神的な深化の両方をもたらす、慈雨と祈りの季節の始まりを告げる時となります。