スヴァーヤンブヴァ・マンヴァーディ
スヴァーヤンブヴァ・マンヴァーディについて
ヒンドゥー教では、創造神ブラフマーの1日を「カルパ(劫)」と呼びます。
その長さは、人間の時間に換算するとおよそ43億2千万年という、気が遠くなるほどの時間です。
このカルパはさらに14の期間に分けられており、それぞれの期間には「マヌ」と呼ばれる統治者が置かれます。
このひとつの期間は「マヌの治世」を意味する「マンヴァンタラ」と呼ばれ、その長さは約3億672万年にも達します。
マンヴァンタラが変わるたびに、神々や七聖仙、さらに神々の王までもが入れ替わり、世界の秩序そのものが大きく刷新されます。
また、各マンヴァンタラの初日である「マンヴァーディ」は、宇宙の創造力が地上に満ちる特別な日とされ、重要な節目として位置づけられています。
このヒンドゥー教が説く雄大な宇宙の流れにおいて、すべての始まりに位置する存在が、第1番目のマヌであるスヴァーヤンブヴァ・マヌです。
その名は「自ら生じた者」を意味し、創造神ブラフマーの身体、あるいはその意思から直接的に顕現した最初の人間であることを示しています。
スヴァーヤンブヴァ・マヌが登場する以前、宇宙には未分化な混沌と神々が存在するのみでしたが、スヴァーヤンブヴァ・マヌと妻であるシャタルーパーの誕生によって、地上における秩序ある人類史が動き出しました。
スヴァーヤンブヴァ・マヌの統治が始まったとされる神聖な日、すなわちマンヴァーディ・ティティは、チャイトラ月(3月〜4月)におけるシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)の3日目(トリティーヤー)にあたります。
チャイトラ月はヒンドゥー暦における一年の最初の月であり、春の訪れとともに新しいサイクルが始まる時期です。
その月の3日目という極めて初期の段階にスヴァーヤンブヴァ・マヌの記念日が置かれている事実は、文字通りスヴァーヤンブヴァ・マヌが「初めの人」であり、現在のカルパにおけるすべての起源であることを象徴しています。
この日は、物質的な世界が創造の海から浮上し、人間が居住可能な環境が整った瞬間を記憶する日とも言えます。
スヴァーヤンブヴァ・マヌが統治を開始するにあたっては、ヴィシュヌ神による劇的な介入がありました。
スヴァーヤンブヴァ・マヌが誕生したとき、大地はまだ宇宙の大海の底に沈んでおり、統治すべき場所が存在しませんでした。
そこでヴィシュヌ神は巨大な猪であるヴァラーハ神の姿をとって現れ、海底から大地を持ち上げたとされています。
こうして用意された舞台の上で、スヴァーヤンブヴァ・マヌは最初の王として即位し、法と秩序、すなわちダルマに基づく統治を開始しました。
その治世は、単に人々を支配するものではなく、人間がいかに生きるべきかという道徳的な規範を確立するためのものでした。
スヴァーヤンブヴァ・マヌの功績として特筆すべき点は、その血統による世界の充満にあります。
妻のシャタルーパーとの間に、二人の息子と三人の娘をもうけました。
息子の血統からは、不動の星として知られる北極星となったドゥルヴァが生まれています。
ドゥルヴァの物語は、純粋な献身によって神の恩寵を得られることを示す教訓として語り継がれています。
一方、娘たちはそれぞれ偉大な聖仙や神々と結婚しました。
次女のデーヴァフーティはサーンキャ哲学の開祖カピラ仙の母となり、三女のプラスーティは創造主ダクシャと結婚し、その娘サティーはシヴァ神の最初の妻となりました。
このように、スヴァーヤンブヴァ・マヌの血脈は王族だけでなく、聖仙や神々の系譜とも深く絡み合い、ヒンドゥー教の世界観全体を支える基盤となっています。
チャイトラ月(3月〜4月)のシュクラ・パクシャの3日目に訪れるスヴァーヤンブヴァ・マヌのマンヴァーディ・ティティは、こうした人類の広がりの原点を回想する静かなる祈りの日です。
私たちが「人間」を意味するサンスクリット語「マヌシュヤ」、あるいは英語の「Man」という言葉を使うとき、そこには無意識のうちにスヴァーヤンブヴァ・マヌの名が含まれています。
スヴァーヤンブヴァ・マヌは、遠い神話の中の存在であると同時に、言葉や文化を通じて今も私たちの在り方を規定している根源的な祖先と言えます。
春の初め、月が細く輝く3日目の夜は、そのような悠久の記憶が蘇る時として、静かに迎えられます。