メール・トラヨーダシー
メール・トラヨーダシーについて
メール・トラヨーダシーは、ジャイナ教において特に重要な祭礼で、マーガ月(1月〜2月)のクリシュナ・パクシャ(満月から新月へ向かう半月)の13日目に行われます。
この日は、宇宙の中心とされる須弥山(メール山)への崇敬と、魂が到達しうる究極の境地を想起する霊的な日とされています。
一般に不吉とされがちな「13」という数字は、ジャイナ教では完成と超越を象徴する神聖な数と理解されています。
この祭礼の中心となるのが、ジャイナ教の最初の祖師であるリシャバナータです。
リシャバナータは、単なる宗教的な指導者ではなく、人類に農耕、文字、統治といった文明の基礎を教えた最初の王としても語られます。
人々が自然の恵みに依存して生きていた時代から、自らの行為によって生を築く「行為の時代」へと導いた存在とされています。
しかし、王としての栄華の只中で、リシャバナータは世の無常を悟り、すべてを捨てて出家しました。
長い苦行と瞑想の末、完全な知を獲得し、マーガ月の13日目にアシュターパダ山で解脱に至ったと伝えられます。
にもかかわらず祭礼名に須弥山が冠されるのは、須弥山がジャイナ教の宇宙論において「魂の不動の中心」を象徴する存在であるためです。
ジャイナ教の宇宙観では、人間世界はジャンブドヴィーパと呼ばれる島を中心に広がり、その中心に須弥山がそびえ立っています。
須弥山は、すべての祖師が誕生直後に神々から祝福を受ける場所であり、霊的完成の象徴とされています。
13日目に須弥山を想念することは、修行者が自己の意識を肉体の制約から解き放ち、宇宙的視野へと拡大することを意味します。
この日の意義を示す物語として、ピンガラ王の伝説が知られています。
須弥山への不敬によって重いカルマを負った王子が、13年間にわたりメール・トラヨーダシーの誓いを守ることで苦しみから解放され、最終的に出家と解脱へ至ったとされます。
この物語は、須弥山への崇敬がカルマの浄化と魂の解放につながることを示しています。
教義的には、13という数は魂の成長段階「グナスターナ」の第13段階に対応します。
これは、肉体を持ったまま全知に至った境地であり、リシャバナータもこの段階に留まり教えを説いたとされます。
信徒が13日目に断食や儀礼を行うのは、この境地を象徴的に追体験するためです。
メール・トラヨーダシーは、古代の宇宙論や神話を背景にしながらも、魂が物質的な束縛を超えて安定と自由を得る可能性を示す日として、現代においても重要な意味を持っています。