マットゥー・ポンガル
マットゥー・ポンガルについて
主に南インドのタミル・ナードゥ州で祝われるマットゥー・ポンガルは、豊穣祭ポンガルの3日目にあたる聖日であり、牛を中心とした人間・自然・神の関係性を再確認する重要な祝祭です。
西暦では1月中旬にあたり、太陽が山羊座へ移行するこの時期は、神々の昼の始まりとされ、農耕社会において特別な意味を持ちます。
ポンガルは4日間にわたって行われ、初日は浄化の日、2日目は太陽神を讃える日とされます。
その翌日のマットゥー・ポンガルでは、太陽の恵みを実際の糧へと変える存在である牛が崇敬の対象となります。
タミル語で牛を意味する「マットゥー」は、同時に富や財産も指し、牛が生活と社会の基盤であった歴史を反映しています。
しかしこの日は、牛を単なる資産ではなく、家族であり神聖な存在として扱います。
この祝祭の背景には、シヴァ神の乗り物である白牛ナンディの神話があります。
神意を誤って伝えたナンディは、人間が多くの食糧を必要とする原因を作り、その贖罪として地上で農耕を助ける役割を担うことになります。
この物語により、牛の労働は罰ではなく、神聖な奉仕として位置づけられます。
マットゥー・ポンガルで牛を休ませ供物を捧げる行為は、その神性を一時的に回復させる意味を持ちます。
また、クリシュナ神がゴーヴァルダナ山を持ち上げて雷雨から人々と牛を守った神話は、遠い天空の神よりも身近な自然や動物に神性を見いだす価値観を示しています。
これは、牛そのものを崇めるマットゥー・ポンガルの教えと深く結びついています。
さらにこの祝祭の精神性は、古代タミルのサンガム文学にも見られます。
牛は戦争や勇気の象徴であり、守るべき聖なる存在でした。
猛牛を制する儀礼は、現代のジャッリカットゥへと受け継がれ、その生命力を試し称える行為として続いています。
祝祭の当日には、牛を沐浴させ、角を彩り、甘いポンガルを捧げる儀礼が行われます。
人間が牛に供物を与えることで、日常の主従関係は逆転し、牛に宿る神性が確認されます。
また、女性たちはカラスを通して祖先に供物を捧げ、家族の結束と繁栄を祈ります。
マットゥー・ポンガルは、人間中心の価値観を相対化し、人と動物、自然、祖先との関係を静かに思い起こさせる祝祭です。
そこには、古代から続く生命への敬意と共生の教えが、今も確かに息づいています。