ナヴァパトリカー・プージャー
ナヴァパトリカー・プージャーについて
ナヴァパトリカー・プージャーは、東インド、特にベンガル地方のドゥルガー・プージャーにおいて行われる、きわめて古層的な儀式です。
華やかな女神像の背後で静かに執り行われるこの祭儀は、女神信仰の根底にある自然崇拝と大地母神信仰を今日に伝えています。
暦では、アーシュヴィナ月(9月〜10月)のシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)の7日目(サプタミー)に行われます。
ナヴァパトリカーとは「九つの植物」を意味し、ドゥルガー女神の九つの側面であるナヴァドゥルガーの依り代と理解されています。
九種の植物は、豊穣、治癒、生命力といった女神の働きを象徴し、自然界に遍在する神聖な力を可視化する存在です。
植物の薬効や食料としての価値は、女神がもたらす恩恵そのものと重ね合わされます。
九つの植物には、それぞれ特定の神格が対応します。
バナナは創造と繁殖力を象徴するブラフマーニー女神をあらわします。
タロイモは暗闇と再生の力を体現するカーリー女神の側面と結びつけられます。
ウコンは浄化と吉祥の象徴としてドゥルガー女神自身を示します。
ジャヤンティー(キダチデンセイ)は勝利を司る力としてカールティキー女神を象徴します。
ビルヴァ(ベルノキ)はシヴァ神に連なる穏やかなシヴァー女神を示し、霊的浄化を意味します。
ザクロは多産と生命力を体現するラクタダンティカー女神に結びつけられます。
アショーカ(ムユウジュ)は悲しみを除くショーカラヒター女神の慈悲を象徴します。
マーンカチュ(インドクワズイモ)は荒々しい破壊力をもつチャームンダー女神を示します。
稲は富と繁栄を司るラクシュミー女神を象徴します。
儀式では、九種の植物が聖なる蔓で束ねられ、河岸で沐浴の儀式を受けます。
その後、生命力を勧請するプラーナ・プラティシュターが行われ、植物は女神の力が宿る神体へと変容します。
ベンガル地方では、これにサリーを着せ「コーラー・ボウ」と呼び、称えます。
それはドゥルガー女神の原初的、大地的な姿を示すものと理解されています。
ナヴァパトリカー・プージャーの起源は、古代の農耕儀礼に遡ると考えられています。
収穫期に大地の恵みに感謝し、来年の豊作を祈る素朴な信仰が、後に女神信仰の体系に組み込まれ、現在の形へと発展しました。
この儀式は、人間が自然の一部として生きていることを静かに思い起こさせるものです。
ナヴァパトリカー・プージャーは、生命と自然への畏敬を体現する、静謐で深遠な祭儀として、今日も受け継がれています。