カルパーランバ
カルパーランバについて
インドの秋は数多くの祭りで彩られます。
その中でも、ドゥルガー女神を讃えるドゥルガー・プージャーは特別な意味を持ちます。
華やかな礼拝で知られるこのドゥルガー・プージャーの中で、特に重要視されるのが、その開始となる「カルパーランバ」と呼ばれる儀式です。
この儀式は、アーシュヴィナ月(9月〜10月)のシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)の6日目(シャシュティー)に行われます。
カルパーランバという言葉は単なる祭りの開始だけでなく、ヒンドゥー教の宇宙観における新たな世界の始まりをも意味します。
「カルパ」はブラフマー神の一日にあたり、人間の時間では43億2000万年とされます。
その終わりには「プララヤ」と呼ばれる大融解が訪れ、万物は原初の海に還ります。
やがてヴィシュヌ神が臍から蓮を生じさせ、その花からブラフマー神が現れ、世界の再創造を始めます。
さらにヴィシュヌ神はヴァラーハ神として大地を海から引き上げ、創造の舞台を整えます。
この神話は、カルパーランバが宇宙的な再生の象徴であることを示しています。
地上で行われるカルパーランバの中心儀式は「ガタ・スターパナ」と呼ばれます。
祭壇に聖なる壺を据え、聖水や宝石、穀物などを納めます。
この壺は宇宙の胎内を象徴し、万物の源とされます。
壺にはマンゴーの葉やココナッツを飾ることで、生命の繁栄と神聖な意識が表されます。
祭司はマントラを唱え、神々の力を壺に招き入れます。
こうして壺は単なる器を超え、宇宙の縮図としての役割を担います。
この行為は神話の創造を再現するものであり、祭りの場を聖域へと変容させます。
また、この儀式には「サンカルパ」と呼ばれる誓願が含まれます。
祭司や家長は、儀式を通じてどのような祈りを捧げるかを宣言し、自らの意志を宇宙の秩序と調和させます。
個人の祈りは共同体の祈りへ、さらに宇宙全体の調和を願う祈りへと昇華します。
ここにカルパーランバの霊的な核心があります。
ドゥルガー・プージャーは、女神が悪魔マヒシャースラを討伐した神話とも深く結びついています。
壺に神々の力を集める行為は、悪魔を倒すために光の集合体から女神が誕生した神話を象徴的に再現します。
さらに『ラーマーヤナ』に由来する「アカーラ・ボーダナ」の物語も関わります。
ラーマ神が時ならぬ季節に女神を呼び覚ました故事に倣い、秋のプージャーは行われます。
カルパーランバはその第一歩であり、女神の臨在を祈る儀式です。
カルパーランバは、宇宙の循環と魂の輪廻を重ね合わせる意味を持っています。
人生もまた、小さなカルパのように始まりと終わりがあり、死を迎えた後も魂は再び生まれ変わり続けます。
個人の霊的な再生は、カルパーランバという儀式に象徴される宇宙の循環と響き合います。
この儀式は、誰もが自らの意志で「内なるカルパーランバ」を始められることを示しています。
古い生き方や否定的な習慣を手放し、新しい霊的な生活を踏み出すことができるという希望を伝える象徴として、今も大切に受け継がれています。