ビルヴァ・ニマントラナ
ビルヴァ・ニマントラナについて
秋の澄んだ空気が広がる頃、インド各地で盛大に行われるのがドゥルガー・プージャーです。
この祭典は、女神に祈りを捧げる9日間のナヴァラートリの中でも特に重要な儀式として数日間にわたり営まれます。
その幕開けを告げるのが「ビルヴァ・ニマントラナ」と呼ばれる、ビルヴァの木を崇める神聖な儀式です。
女神を迎え入れ、祈祷を始めるための大切な儀式とされ、暦ではアーシュヴィナ月(9月〜10月)のシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)の6日目(シャシュティー)に行われます。
ビルヴァ(ベルノキ)は、古来よりシヴァ神と深く結びついてきました。
その三つ葉は三叉の矛や第三の目、さらに三神一体を象徴し、葉を供えることは無数の花を捧げるよりも大きな功徳をもたらすとされます。
また、パールヴァティー女神やラクシュミー女神にまつわる神話も伝わり、女性的な神性を宿す木としても尊ばれてきました。
そのため、ビルヴァの葉は女神を迎える場にふさわしいものとして神聖視されます。
この儀式の背景には、『ラーマーヤナ』に描かれる「アカーラ・ボーダナ」の物語があります。
神々が眠る秋、ラーマ神は羅刹王ラーヴァナとの戦いに臨むため、時ならぬ女神の覚醒を祈願しました。
その際、108本の青い蓮を捧げるはずが1本足りず、ラーマ神は自らの眼を供えようとしました。
その献身に心を動かされた女神は目覚め、力を授けたと伝えられます。
秋のドゥルガー・プージャーは、この出来事を再現する祈りでもあります。
ビルヴァ・ニマントラナはナヴァラートリの6日目の夕刻に執り行われます。
祭司はまず「サンカルパ」と呼ばれる誓願を立て、俗世を離れた神聖な場を整えます。
続いて「ボーダナ」、すなわち女神の目覚めの儀式に移ります。
ガンジス川の聖水を満たした水瓶にマンゴーの葉やココナッツを飾り、マントラを唱えて女神の臨在を招きます。
太鼓や法螺貝の音が鳴り響く中、女神はその水瓶に宿り、人々の祈りを受け入れる存在となります。
さらに「アディヴァーサ」と呼ばれる聖別が行われ、ビルヴァの木に布や花、香が捧げられます。
その後、正式な「アーマントラナ」、すなわち女神を礼拝の場へ迎え入れる招請が進められます。
場合によっては木の枝の一部が切り取られ、祭壇に祀られることもあります。
この儀式は単なる形式ではなく、深い象徴性を秘めています。
女神の覚醒は宇宙の根源的な力の顕現であり、人々の内なる神性を呼び覚まします。
また、自然に神を宿すという世界観を体現し、人間が自然とともに生きる存在であることを思い起こさせます。
何より、女神を招く姿勢は謙虚さと献身に支えられており、神と人との理想的な関わりを示しています。
ビルヴァ・ニマントラナは、壮麗な祭典の扉を開く第一歩です。
古代の神話を映し出しつつ、現代に生きる人々の祈りを通じて宇宙の調和を呼び戻す営みとして、今も受け継がれています。