ウパーンガ・ラリター・ヴラタ
ウパーンガ・ラリター・ヴラタについて
ヒンドゥー教の精神文化において、ヴラタ(誓願の儀礼)は自己を浄め、神性との結びつきを深める大切な修練として伝えられてきました。
その中でも特に崇高な意義をもつのが、ラリター・トリプラスンダリー女神に捧げられるウパーンガ・ラリター・ヴラタです。
このヴラタは、アーシュヴィナ月(9月〜10月)のシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)のパンチャミー(5日目)の日に行われます。
ラリター女神は「三界で最も美しい御方」と称えられますが、その美しさは単なる外見ではなく、宇宙の秩序と調和、純粋意識の光を象徴しています。
女神は慈愛に満ちた母であると同時に、悪を打ち砕く戦士の顔を持ち、宇宙を支える根源的なエネルギー「シャクティ」の顕現とされています。
このヴラタは、女神を讃える9日間の祭典ナヴァラートリの中日である5日目に位置づけられています。
「ウパーンガ」とは「補助的な肢体」を意味し、このヴラタが大祭典であるナヴァラートリを補う重要な一部であることを示します。
この日、人々は多様な女神の姿を讃えつつ、その根源にあるラリター女神へ意識を向けます。
また、このヴラタが行われるアーシュヴィナ月は、雨季の終わりを告げ、大地が豊かに実る季節です。
澄み渡る空と浄められた自然の中で迎えるこの時期は「デーヴィー・パクシャ(女神の半月)」とも呼ばれます。
母なるエネルギーが満ちるこの時にヴラタを行うことで、帰依者は大きな恩寵を受けると信じられています。
太古の伝承によれば、シヴァ神の第三の目から放たれた劫火の灰から悪魔バンダースラが生まれました。
バンダースラは厳しい苦行によって力を得ると神々を追放し、三界を混沌に陥れます。
窮地に追い込まれた神々は至高のシャクティに救いを求め、身を供物とする究極の供犠を行いました。
その祈りに応じて炎の中からラリター女神が現れ、神々を率いて壮絶な戦いに挑みます。
やがてバンダースラを滅ぼし、宇宙に光と秩序を取り戻しました。
このヴラタは、その勝利と女神の慈悲を讃えるものとされています。
ラリター女神の礼拝の中心には、シュリー・チャクラがあります。
シュリー・チャクラは九つの三角形が重なり合う神聖図形で、女神の住処を象徴し、大宇宙と小宇宙である人体の調和を示します。
花や灯明を捧げて瞑想することは、乱れた心身を整え、内面を女神の神殿へと造り替える行為です。
さらに『ラリター・サハスラナーマ』(千の御名)の読誦を通じて女神の神性と意識が共鳴し、心の浄化が進みます。
ウパーンガ・ラリター・ヴラタは、宇宙の神話を映すと同時に、私たちの日常に潜む内面的な葛藤を示す鏡でもあります。
真摯に取り組むことで、帰依者は女神の慈愛や智慧、勇気といった神聖な質を培い、究極の至福と平安に至ることができると信じられています。