ヴリシャボートサヴァ
ヴリシャボートサヴァについて
ヴリシャボートサヴァは、バードラパダ月(8月〜9月)のアマーヴァシャー(新月)にシヴァ寺院を中心に執り行われる祭りです。
この祝祭では、シヴァ神の乗り物であり、最も忠実な帰依者とされる聖なる雄牛ナンディが讃えられます。
同日に農村で祝われる同じく雄牛を讃える「ポーラー」が大地と生命への感謝を表す祭りであるのに対し、ヴリシャボートサヴァは神への献身を象徴する、より霊的な儀礼といえるでしょう。
「ヴリシャバ」は雄牛を意味し、「ウトサヴァ」は祭りを意味します。
その名の通り、この日は雄牛ナンディが主役となり、その崇敬を通じてシヴァ神への帰依を深める機会とされます。
寺院の正面に鎮座するナンディ像は、この日、特別な供養(プージャー)を受け、聖水や牛乳、ギー、蜂蜜などで丁寧に清められた後、花輪や装飾で荘厳に飾られます。
ヴリシャボートサヴァで特に重要なのが、「ショーバー・ヤートラー」と呼ばれる神輿の行列です。
ナンディの神像や絵が美しく飾られた山車に載せられ、町中を巡行します。
太鼓と螺貝の音が鳴り響き、帰依者たちは聖歌を唱えながら行列に従い、祝祭の喜びと神の恩寵を共同体全体で分かち合います。
これは、寺院という聖なる場から人々の日常へと神の祝福を広げる象徴的な行為です。
この祝祭において最も尊い儀式とされるのが「ヴリショートサルガ」、すなわち若い雄牛をシヴァ神に捧げ、完全に労働から解放する放生の儀式です。
トリシューラ(三叉戟)などの神聖な印が押された雄牛は、もはや誰の所有物でもなく、シヴァ神そのものの化身として村中を自由に歩き、人々から敬意と供物を受ける存在となります。
この行為は、功徳を積む最上の方法とされ、祖霊の救済や自己のカルマの浄化に結びつくと信じられています。
ナンディへの信仰は、古代神話にも深く根差しています。
賢者シラーダが厳しい苦行の末に授かった神聖な子ナンディは、短命の宿命にも屈せず、シヴァ神への揺るぎない帰依を貫きます。
その信仰心に感銘を受けたシヴァ神は、ナンディを自らの乗り物とし、永遠の生命と神々の眷属たちの長の地位を与えたと語られています。
この神話は、動物の姿をとりながらも、信仰と献身によって神性に至るというヒンドゥー教の霊的核心を象徴しています。
ヴリシャボートサヴァは、単なる雄牛の祭りではありません。
それは、自己を超えた存在への帰依と、宇宙の理法であるダルマへの信頼を再確認する日です。
ナンディのまなざしは、内なる神性へと導く光であり、この祭りは自らの心に眠る献身の炎を呼び覚ます、霊的な祈りのかたちとして大切に受け継がれています。