アシュタミー・ローヒニー
アシュタミー・ローヒニーについて
インド各地で祝われるクリシュナ神の降誕祭「クリシュナ・ジャンマーシュタミー」。
その中でも、ケーララ州をはじめとするインド南部の一部地域で行われる「アシュタミー・ローヒニー」は、土地に根ざした独自の温もりと親密さに満ちた祝祭です。
この「アシュタミー・ローヒニー」は太陽暦を基にして日取りが決まり、太陰暦に基づく「クリシュナ・ジャンマーシュタミー」とは日程に若干の差異があります。
場合によっては、1ヶ月ほどの差が生じることもあります。
「アシュタミー・ローヒニー」という名は、クリシュナ神の誕生時を指す天文学的・霊的な意味を持っています。
「アシュタミー」は、月が欠けていく黒分の八日目、暗黒の中に希望が宿る夜を象徴し、「ローヒニー」は愛と創造力に満ちた吉祥のナクシャトラ(星宿)です。
すなわち、闇の中に光が生まれ、世界が新たな秩序へと導かれる聖なる瞬間を示しています。
神話によれば、暴君カンサの恐怖政治の中、クリシュナ神は幽閉された両親のもとで誕生しました。
奇跡に導かれて川を渡り、牛飼いの夫婦に託されて新たな人生を始めるクリシュナ神の物語は、闇からの解放、無知の克服、愛と法による再生を象徴する深い寓意を含んでいます。
ケーララ州では、この神聖な物語が人々の日常に溶け込むように祝われます。
特に、クリシュナ神を「ウンニークリシュナン」(幼子クリシュナ)として愛する信仰が特徴的です。
グルヴァーユール寺院では、灯明や花々で荘厳に飾られた空間の中、神聖なパレードが行われます。
子どもたちがクリシュナ神やラーダーに扮して練り歩く行列は、信仰が生活に息づいている証です。
また、家庭でも祝祭は大切に守られています。
家の床に幼子の足跡を描く「クリシュナパーダム」や、仲間とともに遊びを通じてクリシュナ神の神話を体感する「ウリヤディー」は、信仰を家族や地域で共有する温かな営みです。
バナナの葉に盛られる伝統料理「サディヤ」は、味と文化が調和する祝宴として、祭りの締めくくりを彩ります。
「アシュタミー・ローヒニー」は、宇宙的な真理と人々の素朴な信仰が、ケーララ州という土地で美しく融合した姿です。
そこには、神は遠くにあるものではなく、我が子のように抱きしめ、共に暮らす存在だという、深く優しいまなざしが息づいています。