アーシャーダ・チャウマーシー・チャウダサ
アーシャーダ・チャウマーシー・チャウダサについて
インドの伝統において、季節の変化は単なる自然現象ではなく、内面的な祈りと深く結びつく聖なる時間とされています。
とりわけ雨季にあたる四ヶ月間、「チャトゥルマーサ」は、祈りや内省を深める特別な期間として知られています。
ジャイナ教において、この期間の始まりを告げるのが、「アーシャーダ・チャウマーシー・チャウダサ」という日です。
この日を境に、修行者たちは移動をやめ、一つの場所に留まる「ヴァルシャーヴァーサ(雨季の隠遁)」に入ります。
これは自然界に命が溢れる季節に、知らぬ間に小さな命を踏みつけてしまうことを避けるための非暴力実践であり、全ての命への思いやりの表れです。
「アーシャーダ・チャウマーシー・チャウダサ」という名称には、霊的な意味が込められています。
「アーシャーダ」はヒンドゥー暦の四番目の月(6月〜7月)で、モンスーンが始まる季節です。
「チャウマーシー」は「四ヶ月間」を意味し、「チャトゥルマーサ」と同義となります。
「チャウダサ(チャトゥルダシー)」は各月の新月・満月から数えてそれぞれ14日目、精神的な節目として重視される日です。
これらが重なった日が、祈りと沈黙へと向かう第一歩とされています。
ヒンドゥー教でも、同時期の「チャトゥルマーサ」は宇宙的な静寂の季節とされます。
この期間、世界の守護神ヴィシュヌは「ヨーガニドラー(瞑想の眠り)」に入り、大蛇アナンタの背で休みます。
四ヶ月後に再び目覚めるまで、宇宙の秩序は一時的にヴィシュヌ神の手を離れます。
この眠りには、ヴィシュヌ神の化身であるヴァーマナ神とアスラの王であるマハーバリの伝説が重なります。
三界を治めたマハーバリ王に対し、ヴィシュヌ神が小さな僧の姿(ヴァーマナ神)で三歩分の土地を求めた時、ヴィシュヌ神は巨大な姿に変わって天地を二歩で覆いました。
その後、マハーバリ王は三歩目の土地として自らの頭を差し出しました。
その謙虚さに心を打たれたヴィシュヌ神は、マハーバリ王と共にいることを誓い、雨季の間はマハーバリ王がいる地下王国で過ごすと伝えられます。
このヴィシュヌ神の不在を補うように、シヴァ神の存在感が高まります。
とりわけシュラーヴァナ月(7月〜8月)はシヴァ神への祈りが最も盛んになる季節です。
毒を飲み干して宇宙を救った神話「乳海攪拌」は、シヴァ神の自己犠牲と秩序維持の力を象徴しており、ヴィシュヌ神の眠りの間、その重責を引き継ぐにふさわしい存在とされています。
こうした神話の交差は、ヴィシュヌ神とシヴァ神、ふたつの神格の連携を描き、宇宙が常に守られているという感覚を与えます。
ジャイナ教における非暴力の修練と、ヒンドゥー教における神々の調和は異なる道をたどりながらも、雨季という共通の自然のリズムの中で響き合います。
また、月の14日目「チャウダサ(チャトゥルダシー)」は、両教にとって内省の節目でもあります。
ジャイナ教では心の曇りを祈りと懺悔によって清める日とされ、ヒンドゥー教ではシヴァ神に祈りを捧げる「シヴァラートリ」が行われます。
どちらも、自我やカルマに立ち向かい、魂を磨くための時間とされています。
このように、モンスーンは単なる雨季ではなく、自己を見つめ直す「内なる季節」として考えられます。
アーシャーダ・チャウマーシー・チャウダサは、自然と宗教、身体と精神、神と人とのつながりを見つめ直す、聖なる「立ち止まり」の時を与えてくれています。