カーマダー・エーカーダシー

カーマダー・エーカーダシーについて

月の満ち欠けのそれぞれ11日目に訪れるエーカーダシーは、ヴィシュヌ神に捧げられる日となり、断食や瞑想を行うことが勧められます。

チャイトラ月（３月〜４月）のシュクラ・パクシャ（新月から満月へ向かう半月）の11日目にあたるエーカーダシーは、カーマダー・エーカーダシーといわれます。
このカーマダー・エーカーダシーは、過去の罪を清め、あらゆる願いを叶えることができると伝えられる吉日です。
一説に、以下のような神話が伝わります。

かつて、プンダリーカ王に統治された、まばゆい金や宝石で溢れるラトナプラと呼ばれる王国がありました。
そこでは、ガンダルヴァ（天上の音楽師たち）の夫婦であるラリタとラリターが暮らしていました。
ラリタとラリターは、常に寄り添い、お互いを深く愛し合う、有名な歌い手と踊り手でした。

ある時、プンダリーカ王の宮廷で多くのガンダルヴァが踊る中、ラリタは独りで歌を披露していました。
しかし、ラリタはその場にいなかった妻のラリターへの想いを巡らせ、歌を間違えてしまいます。
そこにいた嫉妬深いヘビが、ラリタが妻への想いに夢中になっていると王に訴えました。
これを聞いた王は激怒し、ラリタを恐ろしく醜い姿をもった悪魔に変えてしまいます。

妻のラリターは嘆き悲しみ、醜い姿を持ったラリタと共に森を彷徨いました。
そこで、聖仙のシュリンギーに出会います。
すると聖仙は、このカーマダー・エーカーダシーのヴラタ（戒行）を行うことを勧めます。
そしてこのエーカーダシーのヴラタ（戒行）を努め上げ、元の姿を取り戻せるよう加護を求めると、ラリタはガンダルヴァとしての姿を取り戻したと信じられています。

カーマダーには「望むものを与える」「願望を叶える」といった意味があります。
インドではこの時期に太陽の力が漲り、暦においては新しい１年が始まる地域も多くあります。
このエーカーダシーの実践によって、過去のあらゆる罪を清め、すべての願望を叶えることができると信じられています。

月の満ち欠けのそれぞれ11日目に訪れるエーカーダシーは、神々に祈りながら断食によって感覚器官を統制し、体と心を清める吉日です。
11が意味するものは、５つの感覚、５つの器官、そして心を合わせた11のものであり、エーカーダシーにおいてはそれらを統制することが重要な行いとなります。

この満月・新月からの11日目は、月の満ち欠けから生じる引力の影響から、感覚器官や心の働きが落ち着き、体に感じる空腹の影響も少なく、断食も行いやすいものであると伝えられます。
特に断食は、絶え間なく働き続けていた体のあらゆる部分を休ませ、忙しなくあちこちに飛び散っていた意識を落ち着かせます。
体の浄化に加え、欲から切り離されることで心の雑念までもが洗い流され、神が宿る場所としての肉体、精神が生み出されていきます。

困難を伴う感覚の統制も、瞑想やジャパなどを通じ崇高者に心を定めることで容易なものとなります。
エーカーダシーを通じ瞑想するヴィシュヌ神の本質は、時の流れにかかわらず、宇宙が生成する以前に存在し、そして消滅した後も存在し続けるといわれます。
エーカーダシーは、万物の中にあまねく浸透する存在と一つとなる機会でもあります。