ガウリー・ヴィサルジャナ
ガウリー・ヴィサルジャナについて
インド西部マハーラーシュトラ州には、家庭の繁栄とシャクティ(女性エネルギー)を讃える「ジェーシュタ・ガウリー・アーヴァーハナ」という祭礼があります。
三日間にわたるこの祭礼は、ガネーシャ神の降誕を祝うガネーシャ・チャトゥルティーの期間中に行われます。
暦では、バードラパダ月(8月〜9月)のシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)の八日目(アシュタミー)からの三日間にあたります。
初日は女神を迎える「アーヴァーハナ」、二日目は礼拝の「プージャー」、そして最終日は女神を元の世界へと送る「ヴィサルジャナ」で締めくくられます。
この祭礼の特徴は、「ガウリー(吉祥を象徴するパールヴァティー女神)」と「ジェーシュター(不運を担う女神でラクシュミーの姉)」という、相反する二柱の女神を一緒に祀る点にあります。
これには、豊穣と欠乏、幸運と不運、光と闇――こうした宇宙の両義的なエネルギーを共に受け止めることで、生活に調和と再生を呼び込むという意義があります。
それを家庭で実現させるのが、この三日間の儀礼といえます。
中でも、三日目の「ヴィサルジャナ(送神)」は、祭礼全体を締めくくる重要な瞬間です。
二日間にわたり家庭で歓待された女神は、感謝を込めた最後のプージャーを受けたのち、歌や太鼓の音に送られて家の外へと運ばれます。
そして川や湖、海といった水辺に至ると、御神体は静かに水へと浸されます。
この行為には深い象徴があります。
御神体は「形ある女神の姿」ですが、水に溶けて消えていくことで、女神の力は再び形なき宇宙の源へ還ると理解されます。
水は浄化と再生の象徴であり、家庭に宿っていた祝福は、そこから自然界全体へと広がっていきます。
つまりヴィサルジャナは、個人の家の祭祀を超えて、宇宙の循環に合流する瞬間です。
ヴィサルジャナが教えるのは「執着を手放す智慧」です。
この流れは人間の生と死、出会いと別れ、創造と破壊のリズムを映しています。
特に、ガウリー女神という吉祥とジェーシュター女神という不吉を並べて祀った後に、共に送り返すことは、「光と影の両方を受け入れ、やがて再生に転じる」という教えを象徴しています。
ジェーシュタ・ガウリー・アーヴァーハナは、女神を「迎え、共に在り、そして送る」という三段階を通して、宇宙の循環そのものを家庭で実現する祭礼です。
そのクライマックスであるヴィサルジャナは、出会いと別れの中に潜む調和と再生の真理を、人々に強く体感させます。
家庭で行う祭祀でありながら、この行事は宇宙のリズムを映し出し、私たちに「生かされていることへの感謝」と「手放す勇気」を思い起こさせます。
相反する力であるガウリー女神とジェーシュター女神の両方を送り返すことで、人は人生の光と影を受け入れ、より大きな調和へと近づけることを示しています。