ガウリー・ハッバー
ガウリー・ハッバーについて
南インドのカルナータカ州やアーンドラ・プラデーシュ州、タミルナードゥ州では、雨季と実りの季節に合わせて「ガウリー・ハッバー」という祭りが行われます。
これはパールヴァティー女神の優しい相であるガウリー女神を家庭に迎え、その恩寵を願う大切な行事です。
特に女性にとっては、家庭の幸福と繁栄を祈る大切な機会とされています。
この祭りは、ガネーシャ神の降誕祭「ガネーシャ・チャトゥルティー」の前日に行われます。
暦では、バードラパダ月(8月〜9月)のシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)の3日目にあたります。
母なる女神を迎え、翌日に息子であるガネーシャ神を祝うという、美しい母子の物語が背景になっています。
その物語は、女神の「帰郷」を語るものです。
シヴァ神の住む聖山カイラーサから、年に一度、ガウリー女神が地上に降り、父ヒマヴァットのもとへ里帰りすると伝えられています。
さらに、その翌日には、息子であるガネーシャ神が母を迎えに来て、再びカイラーサへとお連れするといわれます。
これが、ガウリー・ハッバーの翌日にガネーシャ・チャトゥルティーが祝われる由縁です。
この伝承は、インドにおける娘の帰郷文化と重なり、神々と人々の絆を身近に感じさせます。
また、ガウリー女神とガネーシャ神の誕生譚も深く関わります。
パールヴァティー女神が自身の体から創り出した子であるガネーシャ神が父シヴァ神に斬られ、後に象頭の姿で蘇った物語は、母子の強い絆と再生を象徴します。
そのため、母を讃えるガウリー・ハッバーと、息子を祝うガネーシャ・チャトゥルティーは切り離せない関係にあります。
祭りの中心にあるのは「サウバーギャ」、すなわち既婚女性にとっての吉兆と幸福を願う祈りです。
夫の長寿、子宝、家庭の繁栄が含まれ、既婚女性は自らをスマンガリー(吉兆を持つ女性)と重ね合わせ、ガウリー女神に祈ります。
未婚の女性もまた、パールヴァティー女神が苦行の末にシヴァ神という理想の夫を得たように、自らも良き伴侶に出会えるよう願います。
さらに女神は宇宙の根源力「シャクティ」の顕現でもあり、女性たちは自らの内に宿る力を再確認する機会ともなります。
儀礼の中心は「スヴァルナ・ガウリー・ヴラタ」と呼ばれる誓願です。
家を清め、米粉で描いた模様や葉で飾った祭壇を設け、ターメリックで作った女神像を安置します。
供物や花、灯明を捧げ、最後に「ガウリーダーラ」と呼ばれる黄色い糸を右手に結び、女神の加護を祈ります。
さらに「バーギナー」と呼ばれる縁起物を既婚女性同士で分け合い、祝福を共有します。
これらはすべて、家庭の平和と共同体の絆を強める行為です。
ガウリー・ハッバーは、女神の帰郷という物語を通じて、母と子、夫婦、そして家族の絆を讃える霊的な実践です。
灯明に照らされた家庭は、女神の慈愛に包まれ、新たな調和と繁栄を迎えると信じられています。