カジャリー・ティージ
カジャリー・ティージについて
インド北部、特にラージャスターン州やウッタル・プラデーシュ州で祝われる「カジャリー・ティージ」は、モンスーンの到来と共に営まれる、夫婦の絆と自然への感謝を祈るヒンドゥー教の祭りです。
乾季にひび割れた大地を潤す黒雲「カジャリー」がその名の由来であり、雨を呼ぶ希望と重なります。
このカジャリー・ティージは、バードラパダ月(8月〜9月)のクリシュナ・パクシャ(満月から新月へ向かう半月)のティージ(3日目)に祝われます。
カジャリー・ティージの根底には、パールヴァティー女神とシヴァ神の神話が流れています。
前世で「サティー」としてシヴァ神に嫁いだパールヴァティー女神は、父の侮辱に耐えられず命を絶ちます。
深い悲しみに沈んだシヴァ神は世を捨て瞑想に入りますが、転生したパールヴァティー女神は再びシヴァ神を夫とするため、王宮を捨てて森で過酷な苦行に身を投じます。
108回もの生をかけたこの献身はついにシヴァ神の心を動かし、二人は神聖な結婚を果たします。
カジャリー・ティージはその愛の成就を讃える日です。
この物語は、モンスーンと深く響き合います。
大地の乾きとパールヴァティー女神の孤独、恵みの雨と愛の再会。
また、この祭りの時期は実家への帰省が困難な雨季にあたるため、嫁いだ女性たちは離れた家族への思慕(ヴィラハ)を募らせます。
これらの感情は「カジャリー」と呼ばれる民謡に込められ、自然の美しさと切ない愛を歌い上げます。
儀礼もまた深い霊性を帯びています。
女性たちは「ニルジャラー・ヴラタ」と呼ばれる水さえ口にしない断食を行い、パールヴァティー女神の苦行をなぞります。
また、「ニーマディー・マーター」と呼ばれるニームの木を崇拝する慣習も見られます。
苦味を持つこの木は、清めと守護の象徴であり、苦しみの先にある喜びを暗示しています。
さらに、ラージャスターン州では「サットゥー」と呼ばれる炒り粉を食し、素朴な大地の恵みに感謝を捧げます。
こうした行為はすべて、愛と献身、自然と再生という祭りの核心とつながっています。
この祭りの根底には、三つの霊的理念が流れています。
一つは、女性の内なる力「シャクティ」の顕現。
もう一つは、自己を律する苦行「タパス」の力。
そして、夫婦の精神的な絆「パティヴラタ」の理想です。
これらが交錯し、カジャリー・ティージは単なる季節の祭りを超え、祈りと愛、自然と霊性が一体となった深遠な祭礼として人々の心に息づいています。