ヴィシュヴェーシュヴァラ・ヴラタ
ヴィシュヴェーシュヴァラ・ヴラタについて
ヴィシュヴェーシュヴァラ・ヴラタは、宇宙の主としてのシヴァ神を崇拝する厳格な戒行です。
特にカルナータカ州において大きな意味を持つこの戒行には、豊かな神話的伝統が息づいています。
ヴィシュヴェーシュヴァラという名は、全宇宙の支配者という意味を持ち、シヴァ神の至高の姿を表現しています。
カルナータカ州ウドゥピ地区に位置するイェルール・シュリー・ヴィシュヴェーシュヴァラ寺院は、千年以上の歴史を持つ聖地です。
この場所には、12の古代の岩碑文が残されており、寺院の長い歴史を物語っています。
寺院の創建には、シュードラの王、クンダ・ラージャーにまつわる壮大な物語が伝わっています。
ある日、王は有名な聖者バールガヴァ・ムニを王国に招きました。
しかし聖者は、寺院も聖なる川もない土地への訪問を断ります。
この言葉に心を痛めたクンダ・ラージャーは、王国の統治を補佐官に任せ、はるか遠くのガンジス河畔まで旅をしました。
ガンジス河畔で王は、シヴァ神の恩寵を求めて厳しいヤジュニャ(火の儀式)を執り行います。
昼夜を問わない献身的な祈りと苦行を通じて、シヴァ神は王の純粋な心に深く感動しました。
そして、シヴァ神は王の前に姿を現し、その王国に永遠に留まることを約束したと伝えられます。
この約束は、後の寺院建立につながる重要な出来事となりました。
イェルールという寺院の名前の由来には、神聖な力を示す感動的な逸話が秘められています。
ある日、森で迷子になった息子を必死に探していた部族の女性が、植物の太い茎を切りました。
すると驚くべきことに、切り口から鮮やかな血が流れ出します。
我が子かもしれないと思った女性は、カンナダ語で「イェル(起きて)」と叫びました。
その叫びが響いた瞬間、シヴァ神がリンガム(シヴァ神の象徴的形態)として姿を現したといわれます。
流れ出る血が止まったのは、クンダ・ラージャーがリンガムにココナッツの水を注いだ時でした。
後にこの場所にイェルール・シュリー・ヴィシュヴェーシュヴァラ寺院が立ち、今日まで寺院ではココナッツの水による供養が続けられています。
ヴィシュヴェーシュヴァラ・ヴラタは、カールッティカ月(10月〜11月)のシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)のチャトゥルダシー(14日目)、特別な期間であるビーシュマ・パンチャカの3日目に行われます。
この日を選ぶことには、強い霊的な意味が込められています。
人々はブラフマ・ムフールタ(夜明け前の聖なる時間)に起床し、心身を清める儀式的な沐浴を行います。
清浄な白い衣服を身につけ、一日中の完全な断食を守ります。
その間、シヴァリンガムへの献身的な礼拝を行い、果物、牛乳、菓子などを供物として奉納します。
マントラの詠唱と瞑想を行い、翌朝にはサットヴァ(清浄)な食事で断食を終えます。
ヴィシュヴァナータ(ヴィシュヴェーシュヴァラ)という名には、深い意味が込められています。
「ヴィシュヴァ(宇宙)」は全存在を、「ナータ(主)」は最高の支配者を表します。
この形態のシヴァ神は、万物の守護者であり、苦悩の除去者として崇拝されます。
シヴァ神は全宇宙の創造、維持、破壊の主として、また時間と空間を超越した存在として理解されています。
慈悲と正義の化身であり、全ての生命の源泉、そして解脱(モークシャ)への導き手としても崇敬されています。
真摯な心でヴィシュヴェーシュヴァラ・ヴラタを行うことにより、内なる平安の獲得、精神的な強さの向上、過去の業からの解放、神との結びつきの強化などの霊的な恩寵がもたらされると信じられます。
また、長寿と健康な生活、家族全体の調和と幸福、子孫の繁栄と健康、良縁との出会いなども約束されると言われています。
このヴラタは、ビーシュマ・パンチャカという特別な期間中の重要な祭礼の一つです。
同時期には、トゥラシー・ヴィヴァーハ(聖なる植物と神との象徴的な結婚式)、ヴァイクンタ・チャトゥルダシー(ヴィシュヌ神の天界への門が開かれる日)、デーヴァ・ディーワーリー(神々のディーワーリー)なども執り行われます。
これらの祭りと共にヴィシュヴェーシュヴァラ・ヴラタを行うことで、戒行の効果がさらに高まるとされています。
ヴィシュヴェーシュヴァラ・ヴラタは、シヴァ神との永遠の結びつきを象徴する生きた伝統として、バクティ(献身)の精神を体現しています。
その豊かな神話、体系的な修行方法、霊的な重要性を通じて、この戒行は魂の浄化と神との一体化への確かな道筋を示し続けています。
古来より受け継がれてきたこの戒行は、人々の心に神聖な光をもたらし、究極の解脱への道を照らし出す灯火となっています。