タミル・ナードゥ州、ベンガル湾の海岸に建つバーラ・スブラマニヤスワミ寺院は、ムルガン神を祀る六大聖地の一つとして、古来より多くの参拝者を魅了してきました。
海辺に位置するこの寺院は、善と悪の壮大な戦いの舞台となった神聖な場所です。
古代の聖典に伝わる物語によると、この寺院の歴史は神々と魔族の戦いに始まります。
賢者カシャパの息子シューラパドマーは、シヴァ神への厳しい苦行によって強大な力を得ました。
その力は、女性との結合なしに生まれたシヴァ神の子以外には倒せないという特別なものでした。
力を手に入れたシューラパドマーは、ヴィーラ・マヘーンドラプリという島に要塞を築き、天界、地界、冥界の三界を支配下に置きました。
神々の王インドラを幽閉し、その妃インドラーニーまでも欲しがるようになったシューラパドマーの暴虐に、神々は苦しみました。
窮地に追い込まれた神々は、シヴァ神に助けを求めます。
シヴァ神は第三の目を開き、六つの火花を放つと、これらの火花は神聖なシャラヴァナ湖に落ち、六人の赤子となりました。
シヴァ神の妃であるパールヴァティー女神はこの六人の赤子を一つに抱き寄せ、六つの顔と十二の腕を持つムルガン神が誕生しました。
ムルガン神は、シューラパドマーとの決戦に向けてティルチェーンドゥルを本拠地に選びました。
通常、ムルガン神を祀る寺院は山上にありますが、この寺院は唯一、海辺に建てられています。
戦いの前にムルガン神は、部下のヴィーラバーフを使者として送り、神々の解放を求めました。
しかし、交渉は失敗に終わり、五日間におよぶ激しい戦いが始まりました。
六日目、ムルガン神は神聖な武器ヴェール（槍）でシューラパドマーを二つに引き裂きました。
ここでムルガン神は慈悲の心を示し、分断された体の一方を孔雀に、もう一方を雄鶏に変えました。
これらは後にムルガン神の乗り物と旗印となりました。
寺院の敷地は南北91メートル、東西65メートルあり、高さ48メールの壮大な9層のゴープラム（塔門）を特徴としています。
寺院の中心となる本殿には、配偶神のヴァッリーとデーヴァセーナーを伴うスブラマニヤスワミ（ムルガン神）が安置されています。
特筆すべきは、主神が祈りを捧げる姿で表現されていることで、これは勝利後に父のシヴァ神への敬愛を示すムルガン神の姿を表しています。
海面より低い位置にありながら、この寺院は一度も海水の浸水を経験していません。
この不思議な現象は、神の加護の証として受け止められています。
寺院の歴史の中で特に印象的なのは、オランダ占領期（1646-1648年）のエピソードです。
金と同じ価値があると噂された寺院の神像を略奪したオランダ兵は、海岸からわずか数海里のところで、激しい嵐に襲われます。
略奪した寺院の神の怒りだと考え、オランダ兵は神像を海に投げ捨てました。
その後、神のお告げにより、海に浮かぶ石灰とその上を旋回する鳶が目印となって神像は奇跡的に発見され、元の場所に戻されました。
寺院では、ムルガン神の勝利を祝うスカンダ・シャシュティーが重要な祭礼として執り行われます。
六日間にわたる祭りでは、厳格な断食が守られ、スーラサンハーラムと呼ばれる戦いの再現が行われます。
寺院の壁面には、スーラサンハーラムの戦いを描いた精緻な絵画が施され、聖なる歴史を視覚的に伝えています。
また、この寺院はヴィシュヌ神とシヴァ神の両方の様々な姿を祀る稀有な存在としても知られています。
このように、ティルチェーンドゥルのバーラ・スブラマニヤスワミ寺院は、神の勝利と慈悲、そして霊的な変容を象徴する聖地として、今日も参拝者の心の拠り所となっています。
ムルガン神の六大聖地の中で唯一の海辺の寺院として、その豊かな神話的伝統と霊的な意義を今に伝えています。
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