ハヤグリーヴァ・ジャヤンティー
ハヤグリーヴァ・ジャヤンティーについて
ヒンドゥー教において、知識と智慧は無知の闇を照らす光として崇められてきました。
その象徴的存在が、馬の頭を持つハヤグリーヴァ神です。
ハヤグリーヴァ神は、宇宙の秩序を維持するヴィシュヌ神の化身であり、あらゆる学問・芸術・知識の源とされます。
ハヤグリーヴァ・ジャヤンティーは、この神の降誕を祝う祭典で、毎年シュラーヴァナ月(7月〜8月)の満月に祝われます。
ハヤグリーヴァ神の姿は、白馬の頭と人間の身体という印象的なものであり、その白さは清らかな智慧の象徴です。
通常、四本の手を持ち、それぞれに意味深い持物を携えています。
書物(ヴェーダ)を持つ手は知識そのものを象徴し、法螺貝は聖音「オーム」、円盤(チャクラ)は悪と無知を断ち切る力、数珠は瞑想と霊的実践を示しています。
このハヤグリーヴァ神にまつわる最も重要な神話は、ヴェーダ奪還の物語です。
宇宙創造の初期、創造神ブラフマーがヴェーダを唱えようとしたところ、マドゥとカイタバという二人の悪魔がそれを奪い、宇宙は混沌に包まれてしまいます。
神々の祈りに応えて目覚めたヴィシュヌ神は、馬の頭の姿に化身し、海の底へと潜って戦い、悪魔を倒してヴェーダを取り戻します。
これにより宇宙の秩序が回復しました。
この神話は、私たちの内面にも当てはめられます。
マドゥとカイタバは無知や傲慢、怠惰といった心の暗い側面の象徴であり、ハヤグリーヴァ神は、それらを乗り越えて真理を取り戻すための霊的な力として描かれています。
ハヤグリーヴァ・ジャヤンティーは、学問を志す人々にとって非常に重要です。
特に、この日は「ウパーカルマ」という儀式が行われる日にも重なります。
これは、バラモンの若者がヴェーダ学習を始める、あるいは新たな学びの周期を迎えるための聖なる始まりの儀式で、聖なる紐を新調し、心身を清めた上で神に祈りを捧げます。
この日に行われるプージャー(礼拝)では、白い花やトゥラシーの葉、牛乳やギーを使った供物が捧げられます。
記憶力や理解力の向上を願って、ハヤグリーヴァ神を讃えるマントラの詠唱も行われます。
ハヤグリーヴァ・ジャヤンティーは単なる祝祭ではなく、私たち一人ひとりが無知から抜け出し、真理と智慧を取り戻す旅の始まりを象徴する日です。
このハヤグリーヴァ神は、学問の神であると同時に、内なる覚醒を導く「アーディ・グル(原初の師)」でもあります。
その姿は、知識の光と霊的成長への道を力強く示してくれています。