アーシャーダ・アシュターニカー
アーシャーダ・アシュターニカーについて
アーシャーダ・アシュターニカーは、ジャイナ教において、年に三度訪れる重要な霊的期間のひとつです。
「アシュターニカー」は「アシュタ(八)」と「アーニカー(日)」に由来し、八日間にわたる儀式を意味します。
この祭事は、パールグナ月(2月〜3月)、アーシャーダ月(6月〜7月)、カールッティカ月(10月〜11月)に行われ、中でもパールグナ月とアーシャーダ月は「ナンディーシュヴァラ・アシュターニカー」という特別な名称で呼ばれます。
この祭事が特別な理由は、天上の礼拝と地上の儀式が同時に行われるという信仰にあります。
ジャイナ教の宇宙観では、「ナンディーシュヴァラ・ドヴィーパ」という神秘の島が存在し、そこには52のジャイナ教寺院があって、天界の存在たちによって永遠に礼拝が続けられているとされています。
人間はこの聖なる島に実際に行くことはできませんが、アーシャーダ・アシュターニカーの期間中は、地上の寺院を象徴的にその聖地になぞらえ、天界の儀礼を再現する「代理礼拝」が行われます。
これにより、人間には到達不可能な神聖な場所に、心を通わせることが可能になります。
アーシャーダ・アシュターニカーは、アーシャーダ月のシュクラ・パクシャ(新月から満月へ向かう半月)の8日目から満月までの期間にあたります。
この時期は一年で最も暑い季節であり、容赦なく照りつける太陽の熱は、魂にまとわりついた業(カルマ)を焼き尽くす浄化の火として捉えられています。
自然界の炎と呼応するように、この期間に行われる断食や苦行は特別な力を持つとされ、やがて訪れる雨季に向けて心身を整える最適な時期とされています。
この祭事の霊的な力は、古代の物語によって語り継がれています。
かつて、シュリーパーラという王子が叔父の陰謀により王位を奪われ、流浪の末にハンセン病を患いました。
一方、プラジャーパーラ王の娘マイナースンダリーは、父王の試練として病気のシュリーパーラとの結婚を命じられましたが、彼の内なる徳を信じて共に歩むことを決意します。
二人は「シッダチャクラ・プージャー」という聖なる修行に取り組み、病気平癒を願って九日間の断食を毎年二度、四年半にわたって続けました。
その信念と努力により、シュリーパーラの病は癒え、共にいた700人もの人々も健康を取り戻しました。
この物語は、信仰と忍耐が人生を変える力となることを深く物語っています。
アーシャーダ・アシュターニカーの最も重要な目的は、カルマの清めです。
ジャイナ教では、魂は本来清らかでありながら、生まれ変わりを重ねるうちにカルマの粒子に覆われると考えられています。
この祭事では、厳格な断食から一日一食まで、様々な形の節制が行われ、魂の曇りを焼き尽くして本来の輝きを取り戻すことが目指されます。
また、物質的な執着を手放し、礼拝や瞑想に集中することで、輪廻の根本原因である感情の束縛から解放されることも重要な目標です。
個人の修行だけでなく、寺院での合同礼拝や共同断食により、人々が互いに支え合い、霊的な力を高め合う場ともなっています。
アーシャーダ・アシュターニカーは、天上と地上を結ぶ特別な八日間として、ジャイナ教徒にとって解脱への道を歩むための貴重な実践の機会となっています。