クリシュナピンガラ・サンカシュティー・チャトゥルティー
クリシュナピンガラ・サンカシュティー・チャトゥルティーについて

ヒンドゥー教において、象頭の神ガネーシャは道を切り開く存在として崇敬されています。
その中でも、毎月の下弦の4日目に行われる「サンカシュティー(サンカタハラ)・チャトゥルティー」は、ガネーシャ神に捧げられる神聖な誓願の日です。
特に、アーシャーダ月(6月〜7月)のこの日は「クリシュナピンガラ・サンカシュティー・チャトゥルティー」と呼ばれ、特別な意味を持っています。
この日に崇められるのは「クリシュナピンガラ・マハーガナパティ」という名のガネーシャ神であり、この名には深遠な宇宙の真理が込められています。
「クリシュナ」は黒や青黒い色を指し、宇宙の根源に潜む原初の姿、あるいは無限の可能性を湛えるエネルギーを表現しています。
一方「ピンガラ」は黄金や赤褐色を思わせ、輝きや吉祥、清らかな叡智の光を象徴しています。
この二つの色彩が結びつくことで、相反するようでありながら互いを補完し合う力の融合が表現されています。
内なる静けさと外なる光彩、潜在する力と現れ出た祝福──それらがひとつの神格に収められた調和の象徴こそが、クリシュナピンガラ・マハーガナパティです。
この特別な形のガネーシャ神は、「シュリー・シャクティ・ガナパティ・ピータ」という霊的な座に祀られます。
ここで重要なのは「シャクティ」という概念です。
シャクティとは動き、創造し、すべてを包み込む宇宙の根源的な生命力を意味します。
ガネーシャ神の誕生神話を振り返ると、この神がまさにシャクティの顕れであることが分かります。
母なるパールヴァティー女神(アーディ・シャクティの化身)が白檀のペーストから形作り、命を吹き込んで生まれたガネーシャ神は、女性性の根源力を体に宿す存在です。
シヴァ神との戦いで首を失い、象の頭で蘇る物語は、古い自己を超えて新たな智慧へと生まれ変わる変容の象徴でもあります。
タントラ経典において、クリシュナピンガラ・マハーガナパティは内なるエネルギー(クンダリニー)を覚醒させる存在として語られています。
このガネーシャ神への礼拝は、単に外的な障害を除去するだけでなく、霊的な目覚めと内なる変容を促す力を持っているとされています。
色彩の名に託された神性は、心の闇に光を差し、揺るぎない強さと静謐な叡智をもたらします。
それは、黒(クリシュナ)が表す深遠な静寂と、金色(ピンガラ)が示す光明の智慧が融合することで、完全なる調和状態が実現されることを示しています。
この誓願の神聖さは、マーヒシュマティー国のマヒージタ王の物語によって伝えられています。
後継ぎに恵まれず悩んでいた王は、聖者ローマシャ仙の助言でクリシュナピンガラ・サンカシュティー・チャトゥルティーの誓いを立てました。
王と妃スダクシナーが心を込めて礼拝を捧げた結果、ガネーシャ神の恩寵により待望の息子を授かったと伝えられます。
この物語は、この誓願が持つ実践的な力を示すだけでなく、純粋な信仰と献身的な祈りがもたらす変容の可能性を物語っています。
ヒンドゥー教では人生の四つの目標──ダルマ(正義)、アルタ(富)、カーマ(願望)、モークシャ(解脱)が示されており、クリシュナピンガラ・マハーガナパティへの祈りは、これらすべてに通じる扉を開くとされています。
誓願の実践そのものが正義(ダルマ)の道であり、神の恩寵による富(アルタ)の獲得、純粋な願い(カーマ)の成就、そして最終的な魂の自由(モークシャ)へと導く力を秘めています。
クリシュナピンガラ・マハーガナパティは、単なる障害除去の神を超えて、宇宙の根源と結びついた神秘の担い手として仰がれています。
このガネーシャ神への祈りは、外なる世界の恵みとともに、内なる世界の浄化と目覚めを促し、人と宇宙を結ぶ祈りの道そのものとなっています。