ラクシャー・バンダン
ラクシャー・バンダンについて
シュラーヴァナ月(7月〜8月)の満月に祝われる「ラクシャー・バンダン」は、兄妹の絆を称える祝祭「ラーキー」として広く知られています。
しかしその本質は、愛と保護、そして霊的な約束を象徴する神聖な儀礼です。
「ラクシャー・バンダン」という言葉は「保護の絆」を意味し、姉妹が兄弟の手首に「ラーキー」と呼ばれる聖なる紐を結び、兄弟の無事を祈ります。
兄弟はその祈りに応えて、姉妹を守り抜くと誓い、贈り物を贈ります。
この紐はマントラで聖別され、悪意や災厄からの守護を象徴する護符としての役割を持ちます。
血縁に限らず、霊的な兄妹関係でも交わされるこの行為は、普遍的な愛と保護の精神を示しています。
儀礼はまず、姉妹がプージャー(礼拝)のための盆を用意するところから始まります。
そして、兄弟の額にティラカを塗り、「第三の目」を開く祝福を授けます。
次にラーキーを右手首に結び、神聖なマントラを唱えます。
この紐には、祈りと無償の愛が込められています。
続くアーラティーでは、炎と煙が兄弟を浄め、神への祈りを運びます。
儀式の終わりには、甘い菓子を互いに分け合い、喜びと祝福を表します。
このラーキーの精神は、古代インドの神話にも豊かに描かれています。
たとえば、『マハーバーラタ』に登場するクリシュナ神とドラウパディーの逸話です。
クリシュナが戦いで指を傷つけたとき、ドラウパディーは咄嗟に自らのサーリー(衣)を裂いてクリシュナ神の指に巻きつけました。
その献身に心を打たれたクリシュナ神は「この恩は必ず報いる」と誓います。
後にドラウパディーが辱めを受けそうになった際、クリシュナ神は無限の布を出現させ、ドラウパディーの名誉を守りました。
この布切れが象徴するのは、無償の愛が神さえ動かす力を持つということです。
また、ヴィシュヌ神の妻ラクシュミー女神が、地下世界を治めるアスラ王バリにラーキーを結ぶという物語もあります。
ラクシュミー女神はバリ王を兄と見なし、門番として仕えていたヴィシュヌ神の解放を願いました。
バリ王は兄としてその誓いに従い、ヴィシュヌ神を解き放ちます。
この逸話は、ラーキーがいかに強い霊的拘束力を持ち、神々の間にも義務を生むのかを教えてくれます。
さらに、死の神ヤマとその妹ヤムナーの伝説も語り継がれています。
死者の魂を裁くという厳格な役目のため、非常に多忙であった兄のヤマ神が久しぶりにヤムナーを訪れた時、ヤムナーはティラカを塗り、ラーキーを結び、再会を喜びます。
その愛に感動したヤマ神は、「この日にラーキーを受けた者は長寿と無事を授かる」と約束しました。
これらの物語は、ラーキーが単なる年中行事ではなく、霊的契約や神聖な愛の証であることを示しています。
結ぶ際に唱えられるマントラは、古代の神話の力を今に呼び覚ます鍵です。
ラーキーはまた、ヒンドゥー教の中核である三つの教え――ダルマ(義務)、カルマ(行為の結果)、プレーマ(無償の愛)――を体現します。
姉妹の祈りも、兄弟の誓いも、自己を超えた霊的な実践であり、魂と魂を永遠の保護と愛で結ぶ神聖な行いとしてあります。
こうしてラーキーは、過去と現在、神と人間、そして一つの魂ともう一つの魂を力強く結ぶものとして受け継がれています。